変わってきている子育ての在り方
一人の子どもを育てるのは、現代も昔も大変なことです。
昔は一家族に何人も子どもがいる大家族も多く、育てる親たちは大変だったと思います。
しかし祖父母や親戚、そして近隣の住民など、数多くの大人たちが子どもの育成に携わってきました。
現代は核家族化も進み、近隣の住民との交流なども少なくなってきており、子どもが大人と接する機会はどんどん減ってきています。
保育所や幼稚園などが唯一大人と交流できる場という家庭も多く、家庭環境がよく分からない家庭もあります。
その中には虐待が疑われる家庭もあり、保育施設などは児童相談所と連携して対応しなければなりません。
一見普通の家庭なのに?
これは保育士が、一見普通の親子の虐待を見抜けなかった時の話です。
その子は、周りよりもハイハイから立って歩くまでのスピードも早く、気づいた頃には目を離した隙にあちこち走り回っているような活発で元気な男の子でした。
勝手に走り回るせいで、よく転んで泣いたりしていましたが、少し時間が経つとケロッとしてまた走り回ります。
何度か男の子がひざや腕に小さな痣を作って保育所に来ることがありました。
しかしその活発さもあり、保育士は家で転んだりしてできた怪我なんだとあまり疑問視しませんでした。
もちろん怪我の多い子には親の管理が行き届いていないという面もあるため、お迎えに来た母親には怪我の理由を聞くと同時に、子どもから目を離さないようしっかり見ていてくださいとお願いします。
男の子のお母さんは見た目も接し方もとても印象の良い方で、そのような注意をした時も「はい、わかりました。気を付けます。」と、話をちゃんと聞き入れてくれていたので、忙しくて手が回らないのだろうと、保育士は思っていたのです。
その考えが間違っていたと知るのはほんの数日後でした。
その日の朝、保育所に児童相談所から男の子を一時保護しているという連絡が入ったのです。
それは、夜中に男の子の家から大声が聞えるという近隣住民の通報により発覚した虐待によるものでした。
男の子は父親から日常的に叩かれたり怒鳴られたりすることがあったそうで、母親もそれを注意できず黙っていたそうです。
それどころか日頃の家庭でのストレスで、母親も手を出してしまうことがあったそう。
保育所にも、以前から不自然な怪我や両親の不可解な言動などはなかったか聞かれることになりました。
そして後に、転んでできたと思っていた傷が、両親に突き飛ばされてできたものだと分かったのです。
保育所は男の子の怪我にも気付いていたし、それが繰り返されていることも知っていたのに、何故虐待を疑わなかったのでしょうか?
親の印象だけで判断してしまったばっかりに、言葉のつたない男の子の気持ちを蔑ろにしてしまったのは大きな過ちだと気付くことになりました。
その保育所ではそのような問題があったため、小さなことも見逃さず、疑わしい場合はすぐに児童相談所に連絡をすることを義務化しました。
決めつけもよくない
しかし、虐待ではなかったこともありました。
同じ保育所に通っていた女の子に、これも近隣住民の通報で児童相談所の職員が訪ねてきたことがありました。
その女の子は特に目立った傷もなく、大人しい性格の子でした。
両親も真面目な印象のある方で、フレンドリーで明るいという感じではなかったですが、育児には前向きな対応を示していました。
近隣住民の通報内容は、夜中にずっと泣き声がする、といったもの。
過去に他の子どもで同じような事例があったため虐待を疑い、保育所でも注意深く観察することになりました。
しかし、これは実際虐待などではありませんでした。
その女の子は元々夜中の寝つきが悪い子で、夜泣きが慢性化していたため両親ともに困っていたそうです。
その両親の気持ちを感じてなのか、女の子の不安も増して夜泣きが長引くこともありました。
そんな中で児童相談所からの職員が訪ねてきたために、両親は虐待を疑われたことにとてもショックを受けていました。
これは保育所にとっても、決めつけで行動してはいけないという教訓になったと同時に、子育ての難しさを改めて認識する出来事になりました。
難しい子育て
児童相談所に通報されたからといって、虐待であると決めつけられているわけではありません。
通報があると、職員はその地域の家庭を見回りしなければならないという決まりがあるのです。
それで何もなかったのならそれで問題ないということで、実際にそれで虐待を見つけることがあるのも事実です。
悪いことをしたら殴られたり、家から追い出されたりすることもあった昔とは違い、現代は少しのことでも体罰や虐待だと認識されることも多くなりました。
実際、本当に暴力にさらされている子どもたちを守るためには大変重要なことではあります。
しかし両親に子育ての負担が集中してしまっている現代、その子育ての難易度は昔よりもとても難しいものになっている気がしてなりません。
kitsuneko22著